借金を何年か放置すると時効となるのか?【時効援用と債務整理】
借金を何年か放置していると時効は成立するのか?
借金には時効が存在します。様々な事情から、返済をずっとしないまま放置している人は、「消滅時効の主張」をすることで支払いを免れることができる可能性があります。
最後に支払い、または借入をしてから、5年以上経過していると、消滅時効の主張により、支払いをしなくてもよくなる場合があるのです。
ただし、注意点として、貸金業者は法的手続きをとることで「時効を延長させる」ことが可能で、時効延長の裁判を起こされると、時効は10年伸びます。(民法174条2項)
また、法的な手続きだけではなく、業者と直接電話をしてこちらが「支払う意志はあります」「借金が残っているのはわかっている」などと借金の承認をした場合は、借金の時効は中断されます。
思いがけない時に業者から電話がかかってきて、そのような言葉を引き出され、時効が中断してしまうことがあるので注意が必要です。
時効が成立するのは、時効延長の手続きや時効の中断がされなかった場合に限ります。では次に、具体的な借金時効の期間と時効延長手続きについて説明していきます。
借金の時効期間
借金の消滅時効の期間は借金の種類によって異なります。
友人からの借金は10年、消費者金融やクレジットカードのキャッシング、銀行からの借金は5年、クレジットカードのショッピングの分割払いの借金は2年、宿泊代金・飲食代金の借金は1年です。
種類 |
時効期間 |
---|---|
消費者金融やクレジットカード会社 | 5年 |
銀行 | 5年 |
割賦販売 | 2年 |
宿泊代金・飲食代金 | 1年 |
友人からの借金 | 10年 |
時効援用の方法
借金は放置しているだけでは、時効は成立せず、借金の消滅期間が過ぎたら「消滅時効の主張」を行わなければいけません。
時効というのは、自ら「時効の利益を受けたい」と主張して初めて成立するのです。これを「時効の援用」といいます。
時効の主張をするには、「内容証明郵送」で行うのがよいでしょう。内容証明とは、どのような内容の手紙を送ったか郵便局が証明してくれる制度です。
内容証明で消滅時効の主張をすることで、郵便局が内容を保存し、それが証拠として残り続けます。郵便局が時効成立の証人になってくれるのです。
郵便法48条によれば、「内容証明の取扱いにおいては、会社(=郵便事業株式会社)において、当該郵便物の内容である文書の内容を証明する。」となっています。これは、法律によってちゃんと規定されているのです。
内容証明郵便は書式が決められており、横書きで横13文字×縦40行以内または、横26文字×縦20行以内で作成しなければいけません。同じ内容の手紙を3通用意し、1通は債権者に、1通は郵便局控え、1通は本人控えとします。
手紙の内容は、具体的に取引最終日から何年経過したか、延長手続きがなされていないこと、時効の利益を受けること、この3点を伝えればOKです。
内容証明郵便はインターネットからも利用できます。
借金を放置していると給料差し押さえされることはあるのか?
差し押さえは、貸金業者が債務者が勤めている会社を把握していないとできませんし、利用している銀行の支店まで特定しないと預金からの差し押さえはできません。
債務者(借り主)自らが勤め先を教えない限り特定はされません。差し押さえされる人は契約時から転職してなかったり、振り込み融資受けるために振り込み先を指定していたような人です。
さらに、差し押さえを実際に行うためには、公正証書や執行文付きの確定判決など公的な債務名義が必要です。手続きをするだけでかなりの苦労なのです。
もし給与が差し押さえられることになっても、普段の生活が守られるように、業者は手取り1/4までしか差し押さえすることができません。
たとえば給料の手取りが40万の場合、差し押さえされるのは10万までです。ただし、差し押さえをされると職場に借金滞納している事実が知られてしまうので、仕事面で支障が出てくるでしょう。
もし現在、差し押さえが確定してしまった状況にある場合、債務整理(自己破産)をすれば、差し押さえの手続きを中止でき、効力を失います。
まとめると、給与差し押さえについては申込時に伝えた職場と今の職場が同じ場合、相手は職場の特定ができていますから、このケースでは給与差し押さえされる可能性はあります。ただし経費対効果を考えてたとえば公務員や上場企業など安定した十分な収入があると判断されたケースのみ給与差し押さえされます。
申込時に伝えた職場と今の職場が一致せず、なおかつ職場を変更したことを伝えていないケースでは相手はあなたの働き先を知りようがないので給与差し押さえはできません。職を転々としているケースでは給与差し押さえの可能性は極めて低いです。
費用対効果を考えても、給料差し押さえは最終的な手段で、そう簡単にされるものではないです。
時効の延長
借金の時効が延長されるケースは主に3つあります。
時効延長の裁判を起こされるケース、差し押さえされるケース、電話などで借金の認知を促されるケースです。それぞれ具体的に説明していきます。
1.時効延長の裁判
一般的に、貸金業者は借金の時効が成立する前に「貸金返還請求訴訟の裁判」を起こします。一度、判決が下りると、その日から10年間消滅時効は延長されてしまいます。
公示送達と呼びますが、この訴訟は欠席裁判でも成立するため、貸金業者に住所を変更したことを伝えていない場合は知らない間に裁判を起こされる可能性があります。
ただし民間の借金で住所不明の者に対して時効延長の裁判を起こすことは稀です。取り立てをするのにも人件費がかかっています。あくまでビジネスとして取り組んでいますから経費対効果を考えて、より回収しやすい債務者を優先して取り立てています。
たとえば元本だけで300万円以上あるなど、あまりに借金総額が大きいケースでは住所不明者に対しても時効延長の裁判を起こされる可能性はありますが、それ以外ではなかなか考えられません。たとえば債務者の借金(元本)が50万円程度で、なおかつ夜逃げをして住所不明状態で、そういった者に対して人件費や訴訟の費用を捻出して回収できるかわからない時効延長の裁判を起こすのは、明らかに会社にとってはマイナスなのです。
2.差し押さえ
差し押さえされた場合、時効は中断されまた1からカウントされます(民法147条)。差し押さえの対象物は「給料」か「預金」どちらかになります。
※民間の借金で不動産までが差し押さえされるケースはほとんどありません。
給与差し押さえについては前に説明した通りです。「判決を取る(債務名義を取る)」ことをし、なおかつ「「職場を特定すること」が必要なためそう簡単にはされません。
預金差し押さえについてですが、以下の3メガバンクとゆうちょ銀行については債権者(お金を貸した側)が弁護士に依頼することで情報開示できるようになるようになっています。
@みずほ銀行
A三井住友銀行
B三菱UFJ銀行
Cゆうちょ銀行(取引履歴も開示可能)
参照:http://www.yuuki-law.jp/blog/2018/02/post-10-567656.html
預金差し押さえについても「債権者が債務者の預金のありかと預金の情報を特定する」必要があり、ようは債権者側が預金のありかを探し出さないといけませんでした。これが2017年1月より3メガバンクとゆうちょに限り弁護士を通すことで簡単に情報開示ができるようになりました。いまはこのこれらの銀行だけですが、この流れは今後も展開し、将来的には、地方銀行も弁護士を通すことで簡単に情報開示できるようになる可能性があります。
差し押さえをされるとその対象物が回収されるばかりか、借金の時効も中断され、再び1からカウントとなるのです。債務者(借りた側)にとっては不利な流れになっていることは間違いありません。もし借金滞納している場合は預金差し押さえされないためにこまめに口座からお金を引き出しておく必要があります。
3.借金の承認
消滅時効5年間の間で、一度でも借金があることを認めれば、その時点で時効は中断され、時効期間の計算は振り出しに戻ります。
たとえば、業者から電話があり、会話の中で「支払う意思はあります」、「支払いたいが少し待って下さい」「借金があるはわかっています」等、借金の承認をした言葉を債権者に伝えたなら、その時点で時効は中断されます。貸金業者は電話の内容を録音するので、それを証拠にします。
たちの悪い債権回収会社ですと、忘れた頃に突然自宅を訪問し、「借金があるのはわかっている」という承認の言葉を引き出し、それを録音することで、時効の延長を狙ってきます。訪問だけでなく、電話などでも甘い言葉で借金を認めさせようとしてきます。
また、承認だけでなく、少額でも「借金の返済」すると、これも時効中断に当たります。業者は、支払いを猶予してくれるなどの誘い文句で時効延長を図ります。このようなやり方にのってしまうと、時効期間は1から振り戻しになるので十分注意しましょう。
時効になっているか自分で調べる方法はあるのか?
消滅時効が成立しているかどうかの目安は「最終取引日(最後に借入をした、もしくは最後に返済を行った日)から5年経過しているかどうか」「差し押さえ、借金の承認があると今までの期間はリセットされ、新たに5年」「延長の裁判があるとさらにそこから10年」です。
最終取引日や差し押さえ、借金の承認は自分で確認すれば、時効の成立日が割り出せると思います。差し押さえについては必ず債務名義を取られる前に住んでいる住所に裁判所からのお知らせが届きますから、それで判断が付きます。
借金の承認については自分で貸金業者とやり取りをしたかどうか記憶を頼りに思い出していくしかありません。
時効延長の裁判を起こされた場合は、裁判所からの公示送達や貸金業者からの督促等の郵便が届くので、そこで確認することができます。
可能性としては低いのですが、もし夜逃げをしていたり、無断で引っ越しをした場合で時効延長の裁判を起こされた場合は郵便物が届かないので、時効を確認することはできません。こちらから業者に連絡すると、借金の承認に該当し、延長する羽目になります。
自分が債権名義になって時効延長されているかどうかオンライン検索できるわけでもなく、郵便物が唯一の頼りなのです。
この場合、一人で考えていても答えは出ませんから、借金問題に強い専門家(弁護士・司法書士)に相談をし、時効になっているかどうか、適切な対処方法を教えてもらうとよいでしょう。
結局、時効を援用したほうがよいのか?債務整理をしたほうがよいのか?
借金を放置していても、業者によっては時効が成立することはあります。しかし、借金を放置していると、利息と遅延損害金が1日単位で増えていき、いつか手がつけられない状態になるでしょう。
消費者金融の年利では、3年放置していると借金は倍に膨れ上がります。貸金業者は時効を延長させるノウハウを体系化しており、あの手この手で中断を図ってきます。
もし、借金を放置して日が浅いなら債務整理をするのも一つの手です。債務整理をすると、利息と遅延損害金をカットされ元本だけの支払いでよくなったり、借金が1/5にカットされたり、免責が下りると借金がゼロになることもあります。
借金の大幅な減額が可能で、借金をきれいに整理することができるのです。
債務整理を依頼して弁護士が仲介に入ると、取り立ては一切なくなり、平穏な日々を過ごせます。もちろん借金延長の裁判や差し押さえをされることもありません。(債務整理をすると差し押さえ手続きが中止され、効力を失います)
自分で時効運用を行う方法
自分で時効運用を行う手順は以下の3ステップです。
@自分の借金の時効期間を確認し、時効期間が経過しているかどうか確認する
A時効の延長が行われていないかどうか確認する
B内容証明郵便で時効消滅の主張を行う
まずは借金の種類のよって時効の期間は異なりますので、自分の借金の時効の期間を確認します。
自分の借金が時効期間を経過していることを確認したら次は時効が延長されていないか確認を取ります。
前述した通り、時効延長の裁判が起こされていないかどうか(過去に届いた郵便物から確認)、過去に差し押さえをされていないかどうか、貸金業者との電話の中で借金の承認をしていないかどうかです。
住所変更していない場合(または住所変更を債権者にきちんと知らせていた場合)は自分で確認が取れます。郵便物が届いていないまた承認や差し押さえをされていないと時効の延長はされていないということです。
無断で住所変更してしまった場合は自分では確認が取れませんので弁護士や司法書士に調査の依頼をする必要があります。専門家に時効運用の手続きを依頼すると1社あたり3万円〜4万円かかります。
時効期間が過ぎていてなおかつ時効延長がされていないと確認が取れれば最後に内容証明郵便で「消滅時効の主張(時効を成立させると主張すること)」を行います。
内容証明郵便用の用紙は文房具店で販売されているので、それを購入します。赤いマス目の原稿用紙です。「内容証明郵便用の用紙」と検索すればインターネット上で無料でダウンロードすることもできます。
内容証明郵便は縦書きの場合は1行に20文字、1枚に26行まで(横書きは横13文字×縦40行以内)と決まっています。その原稿用紙に手書き(またはWordでも可能)で以下の項目を記入します。
注意点として債権者が貸金業者から債権回収業者に債権譲渡されているケースでは、債権者(貸した側)の名前と住所は債権回収会社を調べて記入する必要があります。
同じ内容の用紙を3通用意し、1通は債権者に、1通は郵便局控え、1通は本人控えとします。本人控えを保管し、残り2通を郵便局に持っていき、内容証明で郵送をします。
必ず記載する4つの項目
・日付:郵便物を送る日付を記入します
・時効が完成されていることと時効を運用することを書く:最終返済日がわかっている場合は、「最終返済日の平成〇年〇月〇日の翌日からすでに〇年が経過しています」と具体的に記入します。最終返済日がわからない場合は「最終返済日の翌日から〇年が経過しています」という書き方をします。
・自分と相手の名前と住所:本人と時効消滅の主張をする相手の名前と住所を記入します。相手が企業の場合は会社名と代表者名を書きます。
・把握できているなら最終弁済日、残元金、契約番号・会員番号なども記載:具体的にどの借金を時効運用するのか伝えるため、把握している範囲でその借金の契約番号や残元金、最終弁済日を記入します。ようはどの借金を運用するのか特定するために具体的な情報をわかる範囲で記入します。
以下がテンプレートになります。これを参考に記入すると必要な項目漏れを防げます。
時効援用通知書平成〇年〇月〇日
東京都〇〇区〇〇 〇〇ビル〇〇〇号室
〇〇消費者金融株式会社 代表者代表取締役 〇〇〇〇殿
神奈川県〇〇市〇〇 〇〇〇〇 印
電話番号〇〇〇−〇〇〇〇−〇〇〇〇
FAX番号〇〇−〇〇〇〇−〇〇〇〇
前略 貴社は私に対し、以下に記載する内容の貸金の返還請求をしておられますが、私が貴社より借り受けた当該債務については、最終弁済日の翌日(平成〇〇年〇月〇日)からすでに5年以上が経過しており、時効が完成しております。
契約番号:〇〇〇〇−〇〇〇〇−〇〇〇〇
借入人氏名:〇〇〇〇(ふりがな)
生年月日:昭和〇〇年〇月〇日
住所:神奈川県〇〇市〇〇
当初借入額:〇〇万円
つきましては、私は貴社に対し、本通知書をもって上記貸金債権について、消滅時効を援用しますので、その旨ご通知いたします。
貴社におかれましては、本書面を受領後速やかに信用情報機関宛てに適切な通知をして、登録された事故情報を抹消されますよう、併せてお願い申し上げます。
専門家に時効運用を行ってもらう
一般の方が、取り立てのプロである貸金業者に対して、時効の援用を行使しようとしても落とし穴に嵌る事があります。
自分では時効は成立していると思っていても、業者はわからないところであの手この手で中断手続きを行っている場合が少なくありません。自身で貸金業者に連絡を入れると「承認」とみなされ時効が延長されてしまうケースもあります。
また債権譲渡があった場合、債権回収会社に対して時効運用を行い必要があります。
やはり一番確実なのが専門家に依頼することです。弁護士はあなたの借金状態を正確に分析し、適切に対処してくれます。
専門家に依頼するとまずは借金の時効が成立しているかどうか調査を行ってくれます。
借金の時効が成立している業者に対しては、適切な踏み倒しを行い、時効成立していない業者に対しては早々と債務整理をしたりします。
いずれにしても、無料相談を行っている事務所がほとんどですから、一度相談にのってもらうとよいでしょう。
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